俺が芸人を辞めた理由

※この記事は、別のブログで5年前の2012年4月30日に書いたエントリを再掲したものです。



自身で理由と、そして過去を整理する為に書くentry.

世間では多くの人が希望を胸に抱いて新生活を始め、大卒の同級生も新社会人となりキャリアをスタートさせて早くも一ヶ月が経とうしてるこの時期に、自分がこれから書くのは10年来の目標(あえて夢ではなく)を追う事を諦めた、挫折の備忘録。

辞めた理由を理由をまとめると、

・震災があったから
ネタ番組が無いから
・出たいテレビ番組が殆ど無いから
・テレビ局の言いなりになって、さんざん振り回された挙げ句彼らと心中するのだけは嫌だったから
・プライベートを切り売りしてこのギャラか、と給料の少なさに愕然としたから
・芸人が多すぎてやりたい事が出来る様になるまでのステップが多すぎるから
・その割にダウンタウン以降の芸人で、自分の中でのロールモデルが正直一人も居ないから
・じゃあ自分が自分の理想を体現出来るかというと、それも自信が無かったから
・笑いの進化が既に飽和点に達していると感じたから
・今の時代面白い事を追求するのに芸人という職業はむしろ不向きだと思ったから
・自分の笑いの嗜好がどんどん変わっていきこのまま30年は絶対続かないと思い、未来を描けなくなったから
・売れる、売れないの殆どは運と人付き合いで決まるという事が分かったから
・なのに売れるまで消耗戦を強いられ、若い時の貴重な時間を奪われるから
・しかもツブシが全く効かない仕事だから
・芸人(吉本しか知らないけど)の体育会系の理不尽なルールが合わなかったから
・長年売れてない先輩を生で見てきたから
・辞めるなら出来るだけ早い方がいいから
・他に面白い事なんていくらでもあると開き直れたから
となり、これらを更に端的にまとめ上げると、

やりたい事よりやりたくない事の方が多くなってしまったから



という事に尽きるのだけど、これだけだとあまりに味気ないのでもう少し続きを書く事にする。

辞める事となった一番の決め手は、やはりあの東日本大震災であった。

それまでも国内外の情勢とテレビ界、芸人界の状況、それらと自分の中の好き嫌いを秤にかけながら常に辞め時を探っていたのだが、というかもうほとんど辞めたかったのだけど(辞め時が一番難しい)そんな中であの人災含んだ大天災が起こってしまった事で、完全に心が折れた。
小六の時に松本人志の遺書を読んだその日から十年間、一日たりとも欠かさず考え続けていた笑いとかそんなものは一気に、一瞬にしてどうでも良くなった。急に全てがちっぽけなものに思えてしまったのだ。
理由は、そもそも芸人というのは笑いという文化を売って金という文明を手にしている存在なのだけど、日本の文明そのものが今脅かされている状況で、これ以上の深入りはもう危険だという自分なりの判断と、単純にただただ言いようの無い虚無感に打ち拉がれたからである。

こんな事をやっている、場合じゃない。

今となっては最後の決断をする為の背中を押してくれる機会に恵まれたと前向きに捉えているのだが(不謹慎な表現だとは思うが、僕の語彙力ではこう言う他無いので許して下さい)、この千年に一度の天災がもし無かったならば果たしていつまで続け(られ)ていて、あるいは辞める事が出来ていたのだろうか。
また、現在それでもめげずに頑張っている芸人達にはいつか救われる時が来るのだろうか。こんな時世にあえて夢を追う道を選んだ彼らに、文化の将来を担っていく覚悟を決めてくれている彼らにそのリスクと結果に見合った対価を、僕達観客は、延いては文明は、これから用意していく事が出来るのだろうか?

もっとはっきりと言ってしまうと、今「売れてない」芸人が、いずれ「売れる」を夢見ていられる程、そのパイにはまだ空きが存在するのだろうか? 分からない。分からないが、少なくとも自分の場合だけに限り、あのままもしずっと続けてたとしたら、元々の生活力のなさのせいもあるけど、理想を高く持ち過ぎてその理想と現実とのギャップに耐えられなくなり、いずれは千の風になってしまっていたという事だけは間違いないと断言できる。 まあそうなる前にはさすがに辞めていると思うが、もう少しズルズルと決めかねていた事にはなっていたはずだ。

では何故俺はそこまで芸人に、笑いに固執していたのか。

昔からの憧れ、目標にまだ何も成し遂げて無いまま自分からは背きたくなかったから?
若さ故に視野が狭くなっていて他の選択肢が全然目に入っていなかったから?
それとも中卒には元々他の選択肢がないと最初から諦めてしまっていたから?
ずっと目標を共に追いかけて(くれて)いた作家志望の友達が死んだ事で、後に引き返せなくなったと思い意固地になっていたから?
辞めたら旧友に対してカッコがつかないと思っていたから?
あるいは今までの自分を作り上げたといえるたった一つの小さな小さな心の拠り所だったから?

どれもそうだと頷けるものたちばかりである。が、本当の一番の理由は、もうビックリする位ベッタベタで反吐が出る様な、以前までならば絶対に言わないであろうが、結局のところ笑いが大好きだったから、という事に尽きるのだろうと思う。
故に苦しめられたし色んな物を失った気もするが、これがあったから死なずに何とか済んでるんだと今は思えるようになった。

これからもずっと笑いは好きであり続けるのであろうし、全く無名で、何の実績も挙げられなかったクソ芸人だったが、表現をする側としての数々の経験から通じて得たもの、そして笑いに毎日向き合って出たいくつかの考えみたいなものはある程度突き詰めたものだと自負してるので、これらは一生他の分野にもきっと役立つ血肉となっていくだろうという感触を持っている。

この世界では「売れる為の一番確実な方法は、売れるまで辞めない事だ。」という事をよく、それこそnscの最初の授業でも言われるが、芸人時代とても苦しく死を常に意識してた経験を持つ俺にはそんな無責任な事はとても言えない。
途中でリタイアしても、何回負けても、生きてさえいればトライ出来る。そして一度だけ、たった一度だけでも、勝てばいい。しかもそれは、どんな分野でもいいのだ。
俺は今、予断を許さない状況に立たされていると思うが、大丈夫。ゴールは一つではなく至るところに用意されているのだから。

とか何とかここまで言っておきながら、まだ完全には未練を断ち切れていない優柔不断な自分もまだしっかりいたりするのだが(笑) では最後に、読んだ時は正直ピンと来なかったが、しかし今の自分の気持ちを代弁してくれている、イエローハーツという本に出てくる甲本の台詞を引用して本entryを締めくくることにする。

「夢を諦める事ができたんだよ。」

(うろ覚え)←てへぺろ